2023.01.30 - News

【海外VC対談①】著名ユニコーンを複数輩出してきたグローバルVC、HOF Capitalが語る日本への期待(中編)

株式会社デジタルガレージと大和証券グループ本社の合弁で設立されたベンチャーキャピタル(以下、VC)、株式会社DG Daiwa Ventures(以下、DGDV)。日本発グローバルファンドを掲げるDGDVは、世界中のVC・CVCを中心に定期的なミーティングや共同の投資活動を通じて、海外ネットワークを強化しています。

中でも米国ニューヨークを拠点とするVCのHOF Capital(以下、HOF)とは、共同投資の実績が4件と深い関係を築いています。今回は、HOFの共同創業者・マネージングパートナーのファディ氏とDGDV プリンシパルの野島との対談を通して、HOFの投資方針や判断基準、日本市場に対する考え方などを伺いました。

>>前編から続く

3. HOFの投資について(ファウンダー)

これは個人的な好奇心ですが、ファディはレイターステージのスタートアップとアーリーステージのスタートアップどちらが好きですか?

会社としては両方に対応できる人材が必要だと思いますが、個人的には、アーリーステージに興味があります。

これからの10年、人生をかけて自分のミッションを追求し始めようとしている熱量の高いファウンダーを探し出すことが好きです。
VCで働いている一番のやりがいは、本気で世界を変えようとしている起業家の挑戦をあらゆる角度から知ることができることだと思います。
そういう人たちと付き合うと、私自身の野心や情熱も刺激され、多くの学びにもなっています。

アーリーステージの投資では、主に「起業家やチームの質」「取り組もうとしている市場の規模」、そして「プロダクトの質」の3点を見ることとよく言われていると思いますが、ファディは何が最も重要だと思いますか?
全てが重要なので、ひとつを選ぶのは難しいと思いますが、これまでの経験や成功例から最も成功率が高いと思われる特徴をひとつ教えてください。

最も重要なのは、おそらく長期的な視野を持った優れた起業家です。

効率重視で、すぐに成長できるような事業に取り組むことが重要です。
ベンチャーのエコシステムにおいて、本当に大きな成果を上げるには、10年以上ミッションを追い続けられる起業家だと考えています。

長期的な視野がある限りは、途中で方向転換があっても構わないので、最初のプロダクトが何であるかはあまり重要ではないと考えています。

アーリーステージのスタートアップの起業家話すときに、ブートストラップ(※)型の起業が良いのかとよく聞かれます。
ファディの場合、長期的な成功や会社の成長を加速させるときに、VCからの資金調達をファウンダーに勧めますか?
それとも自己資金で経営することを勧めますか?

(※)ブートストラップ:個人の資金や営業収入だけで会社を設立し、経営すること。

多くの場合、プロダクトの市場適合性を見つけるまでは、ブートストラップ型の方が確実な道です。
いかに優れたVCだとしても、プロダクトが市場に適合しているかを示すことができません。
しかし、市場に適合しているとわかり、さらなる成長を目指すとなったら、資金を投下してマーケットを取りに行くことが大事になると思うので、直ちにVCにアプローチするのがいいと思います。


────優れた起業家であるかどうかの判断基準はありますか?その際の、優秀さとは一体何なのでしょうか。

優れた起業家とは、非常に知的であることはもちろん、使命感を持って行動する人です。

具体的には、過去に組織作りに成功した人か、まだ組織作りの経験が浅いけれども、明らかにIQが高くミッションの実現に向けて取り組んでいる人のどちらかだと思います。

問いを立てる力や問題解決力といった知的スキルは、目標達成への意欲と結びついて、大きな成果を生み出すことができるのです。
そして挑戦し続け、ミッション実現を推し進めようとする強い執念がなければ、事業を成功させることはかなり難しいでしょう。

────HOFのホームページには、“We invest in relentlessly ambitious entrepreneurs”と書いてあります。優れた起業家を見つけるのは難しいと思うのですが、どうやって探しているのでしょうか?

私たちは投資をする前に、起業家と可能な限り多くの時間を一緒に過ごし、理解を深めるようにしています。

半年から1年の間に2〜5回ほどミーティングを重ね、面白いパートナーになりそうな人や、投資パートナーとの関係を構築しているので、私たちが投資をする頃には、すでに関係値ができているんです。

ただ単に企業の課題について質問するだけでなく、起業家の人柄や経歴、なぜ起業するのかを深掘りしています。
何度も話をしていくと、将来のKPIや、どんな約束を果たしていくのか、それをどうやって実現してきたのかなどもわかるようになります。

 

4. 環境変化への対応

2021年の半ばから後半にかけて、VCの環境は大きく変化しました。

2021年は、競争力のあるディールに参加する際、高いバリューエーションを素早く提示する必要がありました。
また足元では、金利が上がって、資金調達額も少し高くなったこともあり、公開市場はあまり動かず、レイターステージの案件が減っています。

米国 の投資家から話を聞くと、レイターステージの案件に対しては慎重になっていますが、その分、起業家と話す時間やアーリーステージの企業により多くの時間を割くことができるようになったと言っていました。
この半年の環境の変化に対して、HOF、あるいはファディ自身はどのように適応してきたのでしょうか?

2021年以降、時代は一変しました。
私たち投資家が、世界のマクロ経済に対して弱気になっていることは確かです。投資戦略も保守的になっています。

この状況を上手に対応するために、市場の変動ができる限り少しの影響なるように、長い時間軸で、優秀な起業家がいるアーリーステージの企業に重点を置き、コントロール可能なペースで投資を行ってきました。
うまく機能すれば、このような不況下でも生き残り、破壊的なイノベーションを作れるスタートアップへの投資ができる可能性があります。

おっしゃる通り、不況時に起こる破壊的なイノベーションは、実際に2008年・2009年の経済危機の際に生まれた代表的なテック企業を見れば一目瞭然だと思います。
ファディは米国在住なので、実感があると思いますが、投資家にとって非常に大きなチャンスがある点で、私もまったく同意見です。

では、今のこの状況は、投資家にとってはポジティブなのかネガティブなのか、どちらだと思いますか?

企業の評価額は全体的に低下しています。
公開市場・非公開市場を問わず成長株には以前よりも低い評価がつきますが、Tier2の企業に対する評価はそれよりも更に厳しい状況です。

この状況の中でも優秀なファウンダーはさまざまな主要ファンドと競争的環境のあるラウンドを行いますが、以前よりも大きな金額を調達するのは困難になっているため、投資家としては時間をかけて案件を見極めることができるような状況となっています。

レイターステージの企業への資金流入が少ないなど、世界ではすでにかなりの数のダウンラウンドが起きているとのことですが、どれくらい続くとみていますか。
それとも今後半年で、良い方向に向かっていくでしょうか?この辺りはどのようにお考えですか?

私としては良くなってほしいですが、投資家としては保守的な見方をしています。
いずれにしても市場はまだもう少し下降線をたどる可能性があると考えているので、投資するペースを抑えています。

私たちは、たとえ業績が悪化していない企業であっても常に状況を把握し、マーケット環境が悪化しているような時でも必要に応じて投資先のサポートをできるようにしています。

この漠然とした資本調達の環境の中で、ファディはHOFの共同創業者としてポートフォリオに特別なメッセージを伝えていますか?

はい、2021年末から2022年初めにかけて、私たちが断固として取り組んできた重要なことがあります。

私たちは、投資先に対して、ランウェイが少なくとも2年、多いときには3年のライウェイを保つことの重要性を訴えて、可能な限り支援しようと努めてきました。

やはり市況が悪い時には資金調達では交渉パワーがなくなるので、できる限りランウェイを伸ばして市場が回復したときに資金を調達することが大事だと思っています。

レイターステージのスタートアップ企業はこの半年、資本の投下やプロダクト開発に消極的で、資本の確保に重点を置いています。

つまりそれは、レイターステージの起業が取り組まなくなった分野に、アーリーステージの企業が取り組む余地ができたということです。
これからもっと破壊的なイノベーションや新しい技術が生まれると思いますが、web3はそのひとつになるかもしれませんね。

 

5.足許の関心分野

────最近、取り組んでいる分野、あるいはもっと時間をかけたいと考えている分野があれば教えてください。また、今後1、2年の間の成長に大きく期待を寄せている分野があれば、いくつか教えてください。

最近は、次世代コンピューティングやジェネレーティブAIなど、ディープテックの分野に非常に興味があり、最も時間を費やしています。

先進国では、次世代テクノロジーが最も重要な役割を担っていますが、開発途上国では、まだ主要な要素が揃っていないので、投資方針も異なりますが、次の市場を理解する意味でも、この分野に注目しています。

────他のVCもおそらく同様の分野にフォーカスしていると思います。HOFと他のVCとの違いは何でしょうか?

次世代コンピューティングへの投資について触れましたが、これらは技術分野の最前線に位置するものです。

HOFが特別な存在である理由は、優秀なファウンダーを見つけることができる点です。
創業以来、何年にもわたってトップクラスの起業家のネットワークを構築してきた事績があります。このネットワークの中にいるファウンダーの多くは、今や数十億ドル規模の組織のCEOで、彼らの周りに新しいコミュニティが生まれつつあります。
私たちはこのネットワークによって、最先端で起業する若い起業家を何度も発掘することができています。

また、主要な市場のベンチャー・パートナーや、投資先企業に戦略的な価値を提供する力もあります。投資先企業に戦略的な価値をもたらすことは、VCとして非常に重要なことなのです。
さらに重要なのは、過去6年以上にわたって築いてきた当社のネットワークがもたらす複合的な効果です。

新興国と先進国の両方で投資を行ってきた経験上、これらの市場でビジネスを展開するには、最高レベルのプロダクトだけでなく、規制上のハードルなどを克服するために適切なネットワークが非常に重要です。

このような市場には既存プレーヤーとして当社のLP企業がいます。したがって、ディープテック、次世代コンピューティング、ジェネレーティブAIなど、新技術をもったスタートアップが力を発揮するために、こうした環境を活用して、新しい技術を広める方法を見つける必要があります。

具体的にどこの市場に興味がありますか?
ディープテックに関しては、ヨーロッパ、あるいはイスラエルがこの種の技術をリードしていることは知っていますが、この分野で注目すべき市場はあるのでしょうか?

これまでのところ、私たちのディープテック投資の中心は主に米国市場でした。

この分野では、日本市場からの進出も期待したいです。日本市場には才能ある人材がまだまだ埋まっていると信じています。
過去数十年と同様に、今後より多くの才能を発掘することができれば面白いと思います。

 

>>>後編へ続く