2023.01.10 - News

【海外VC対談①】著名ユニコーンを複数輩出してきたグローバルVC、HOF Capitalが語る日本への期待(前編)

株式会社デジタルガレージと大和証券グループ本社の合弁で設立されたベンチャーキャピタル(以下、VC)、株式会社DG Daiwa Ventures(以下、DGDV)。日本発グローバルファンドを掲げるDGDVは、世界中のVC・CVCを中心に定期的なミーティングや共同の投資活動を通じて、海外ネットワークを強化しています。

中でも米国ニューヨークを拠点とするVCのHOF Capital(以下、HOF)とは、共同投資の実績が4件と深い関係を築いています。今回は、HOFの共同創業者・マネージングパートナーのファディ氏とDGDV プリンシパルの野島との対談を通して、HOFの投資方針や判断基準、日本市場に対する考え方などを伺いました。

 

1. HOFについて

────はじめに、HOFの共同創業者であるファディさんに、HOFの概要についてお伺いします。


HOFは、Fortune 500に選ばれるようなグローバル企業やファミリー・オフィスから支援を受けているVCで、現時点で、HOFのAUMは約12億米ドルとなっております。
投資する分野は、今まさに進化を続けている最新のテクノロジー分野です。
特に、次世代コンピューティングやAI/ML、そしてアプリケーションベースではB2BのSaaS、フィンテック、ソーシャルコマース、デジタルヘルスなどの会社を中心に、これまでSpaceX、Stripe、Klarna、SoFi、Epic Gamesなどに投資しています。

※HOF Capitalのポートフォリオとディスクレイマーはこちらディスクレイマー


────HOFの強みはなんですか?

チームメンバーがそれぞれ異なる価値観で仕事に取り組むことで、チームにさまざまな強さをもたらしていると思います。

投資をする際には、企業の基礎データだけでなく、ファウンダーの人柄や事業への意欲を理解するといった、データドリブンとヒューマンドリブンの両方からのアプローチが必要です。
また、投資先を探すときや、投資先企業の事業開発を行うときには、トップクラスのファウンダーや投資家のネットワークが非常に役に立ちます。

例えば、アーリーステージの企業が大きな組織とパイロットビジネスを作りたいと思ったとき、HOFのLPに大企業が入っていれば、両社をつなぎ、事業開発のサポートをすることができます。将来のM&Aや企業の成長促進をサポートすることにも、HOFのネットワークを活用いただいています。

 

2. DGDVとの共同投資

────ファディさんが共同創業されたHOFは米国が拠点ですが、DGDVは日本のVCです。どのようにしてDGDVを知ったのでしょうか?

これまでにDGDVとHOFはいくつか共同投資をしてきたのですが、きっかけは数年前に遡ります。

当時、HOFは日本の企業とネットワークを構築しているところでした。
その際に、大手金融機関のニューヨーク支店の企業開発部門担当者が、DGDVとHOFの投資分野が似ていることに気づき、両社で手を組めば強みを発揮できるのではないかとご紹介いただいたことがきっかけです。それ以来、DGDVとHOFは連携してきました。

 

────ファディさんと野島さんのお二人はプライベートも含めてとても親しくされているようですが、どのようにお仕事をされているのでしょうか?

DGDVに紹介されて以来、野島さんやDGDVのチームメンバーと少なくとも月に一度はカンファレンスコールをしています。時間帯はいつも米国の私が夜で、日本が早朝ですね。

日本のVCの中でも、DGDVとの共同投資が一番多いです。
私が東京に行ったときも、多くの時間を一緒に過ごさせてもらっており、親しい友人だと思っています。

 

────今までにHOFとDGDVが共同投資した案件について教えてください。

これまでに両社で20件以上の投資を検討し、実際に投資したのは4社です。
共同出資先としては、アジア拠点の「Intellect」、ニューヨーク拠点の「Allara Health」、ナイジェリア拠点の「Helium Health」、パキスタン拠点の「PriceOye」です。
今後も引き続き業種問わずさまざまな国のスタートアップに共同投資する機会を模索していきます。

アジア最大級のメンタルヘルス・ウェルネスアプリを展開する「Intellect」については、DGDVのサポートを得て日本への進出を果たしています。複数の国でプレゼンスを持ち、両社のネットワークを最大限に活用することで大きな付加価値を生むことができると考えています。

我々から見る、海外案件のIntellectやAllara HealthなどはHOFがリード投資家として出資をしており、
DGDVはフォロー投資をしているので、HOFに比べると各社少額の投資に留まっていますが、今後は特に日本案件などで、私たちがリード投資を行いHOFがフォローで入るような案件も増やしたいと願っています。

また、投資に限らずにパートナーシップの観点から日本の大企業を紹介し、日本国内・アジアにおける良い人材プールを紹介したりと、あらゆる面でサポートしたいと思っています。

普段、HOFとDGDVの接点について改めて質問する機会がなかったので、今回このような機会でお話を伺えてよかったです。


<HOF・DGDVの共同投資実績(2022年10月時点)>

Intellect
Astrid Health (サービス名:Allara Health)
Helium Health
PriceOye

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3. HOFの投資について(投資領域・メンバー構成)

────HOFは小規模なチームながら、世界中のスタートアップ、さまざまな分野に投資をしています。どのように投資先の企業を発掘し、投資を決定しているのでしょうか?

私たちは常に見込みのある市場について研究してディスカッションをしています。
注力市場は、その時の状況に応じて変化しますが、注力市場を決めたら、創業以来培ってきたネットワークと情報収集スキルを活かして、幅広く投資先を探し、投資先の評価検討をしています。

今回の対談も参加者は日本、米国、タイと、3つの国から会議に参加していますが、世界はかつてないほどフラットになってきています。そうした世界の情勢に対応できるよう、グローバルに事業を展開し、世界中の主要な市場のパートナー企業とネットワークを作っています。それらの企業は、数十億米国ドル規模にまで到達し、それぞれの国の重要なポジションについています。

また、2015年から投資しているため、各注力市場で投資や事業立ち上げを繰り返している主要なファウンダーとも関係があります。日本からナイジェリアまで、投資するすべての市場に、主要な投資家がいます。これらの投資家の存在は、その市場におけるビジネス開発・流通の両面で大変重要な存在です。

また、ナイジェリアのような新興市場についても、正しいネットワークさえあれば、ある程度投資のリスク・ハードルを下げることもでき、その市場でビジネスを行うことが可能となります。
私自身、先進国と開発途上国の両方で育ってきたバックグラウンドがあるので、トップレベルの事業とトップレベルのネットワークを組み合わせる必要性をよく理解しています。

最後に、私たちは優れたファウンダーや有望なスタートアップの発掘に役立つ「Oasys」という独自のシステムを持っています。インターネット上の情報からデータを収集し、将来有望な投資候補先を抽出してくれるソフトウェアツールとなっています。

まとめると、主要な市場における投資家と、ベンチャーパートナーやファウンダーのネットワークの組み合わせが重要と考えています。加えて、私たちがこれまで検討してきたさまざまな投資機会や、過去の成功体験とも併せて貴重な知識を蓄積することができたため、いい投資先を探し出せていると思っています。

ディープテックやヘルスケアに関連した投資となると、専門的な知識が必要だと思うのですが、セグメントごとに特化した専門スタッフや投資家はいるのでしょうか?

 

特に、バイオテクノロジーの分野やソフトウェア分野など専門的な情報が必要な分野は専門スタッフを配置しています。

バイオテクノロジー分野では、カリフォルニア大学バークレー校で分子生物学を専攻し、スタンフォード大学でも研究をしていたビクター・ワン氏が担当し、HOFでの投資の実績としては、少なくとも1社のバイオテック系スタートアップのユニコーンを輩出する成果を上げています。

ソフトウェア分野に関しても、ソフトウェア・エンジニアとしての職歴を有しているかコンピューターサイエンスを学んだ投資チームメンバーを抱えており、テクニカルレベルで投資検討をする際に様々な経験を生かしたアドバイスを持ち込んでくれています。

各者各様のスキルを有しており、フィンテックの分野では、金融的なバックグラウンドとテクノロジー的なバックグラウンドを併せ持つメンバーを有しており、業界人ならではのインサイトを理解できるメンバーなどもいます。

異なるスキルの組み合わせは、問題解決に有効であると考えています。また、常に、次の投資の準備が必要であり、新しい投資分野も模索中です。

 

────HOFは少数精鋭とおっしゃっていましたが、パートナーやリソース、研究者など、関連している人は何人くらいいるのでしょうか。

私たちの会社は、フルタイムのチームメンバーが14名おり、経営チーム、投資チーム、ビジネス開発、マーケティングなど、主要な日常業務を行っています。

この14人に加えて、世界の主要な市場にベンチャーパートナー、そして世界の主要な大学にベンチャースカウトを配置しています。

私たちもHOFと同様に世界の各地域と様々なセクターをカバーしています。
しかし、HOFのようなVCがラージキャップとアーリーステージの両方のスタートアップへ投資をしていることは非常に珍しいと思います。

HOFのポートフォリオでは、SpaceX、Epic Games、SoFi、Krakenは、レイターステージまで育っています。一方で、基本的なメインの投資先はアーリーステージのスタートアップだと理解しています。

アーリーステージとレイターステージのスタートアップを比較した場合、それぞれ投資をするかどうかをどのように評価するのでしょうか。

異なるステージの企業に投資ができている要因は、多様なファンド組成が可能になり、それらをサポートする投資家がいるおかげです。
投資したアーリーステージの企業が成長し、私たちのファンドでは抱えきれなくなった際に、新しくファンドを組成します。そして、LPに対してIPO前の企業への投資ラウンドへの出資機会なども提供しています。また、スタートアップもアーリーからレイターまでの成長段階を継続的にフォローしてくれるファンドとしてHOFを認識してくれています。
そのため、アーリーステージとレイターステージへの投資は、互いに補完し合うものとして、重要な認識をしています。

また、アーリーステージへの投資では、その企業やチームメンバーのことを知り、親密な関係を築くことができます。そしてその企業がレイターステージに入る頃には、他の投資家よりも企業のことをよく知っているので、投資判断がスムーズにできます。
それによって、レイターステージのラウンドにも、他の投資家対比で容易にアクセスすることができると考えています。
加えて、アーリーステージの企業が、他の投資先企業の顧客やパートナーになることもあるため、アーリーとレイターのミックスを作ることはポートフォリオ企業同士の連携の繋がりの観点からも、非常にいい取り組みだと考えています。

投資先企業間でビジネスが生まれているということですね!

グローバル展開するレイターステージの企業に対して、HOFが持つ世界中のネットワークを活用すれば、最適な人材や市場を紹介できるのは素晴らしいことです。

先ほど、成長段階に応じて企業の評価方法に関して質問がありましたが、どの投資段階においてもファウンダーの評価が最重要となります。しかし、企業が成長してくると、キャッシュフローや優秀な人材の確保などの定量情報も重要になってきます。

つまり、会社の規模が大きくなるにつれて得られる情報も増えるので、レイターステージで正しい判断をすることができます。そのため、既存投資家が新規の投資家より優位なことは間違いありません。

 

>>>中編へ続く