2023.02.15 - News
【海外VC対談①】著名ユニコーンを複数輩出してきたグローバルVC、HOF Capitalが語る日本への期待(後編)
株式会社デジタルガレージと大和証券グループ本社の合弁で設立されたベンチャーキャピタル(以下、VC)、株式会社DG Daiwa Ventures(以下、DGDV)。日本発グローバルファンドを掲げるDGDVは、世界中のVC・CVCを中心に定期的なミーティングや共同の投資活動を通じて、海外ネットワークを強化しています。
中でも米国ニューヨークを拠点とするVCのHOF Capital(以下、HOF)とは、共同投資の実績が4件と深い関係を築いています。今回は、HOFの共同創業者・マネージングパートナーのファディ氏とDGDV プリンシパルの野島との対談を通して、HOFの投資方針や判断基準、日本市場に対する考え方などを伺いました。
6. 日本市場について
HOFは日本市場に興味を示しているVCのひとつですね。
もちろんファディ自身が日本が好きということで、個人的な意見もあるとは思いますが、最初に日本に興味を持ったのはどのような背景からですか?
それは、1970年代あるいは1980年代くらいまで時代をさかのぼります。
私の祖父はエジプトの市場にカラーテレビを導入しました。当時のクライアントはナショナル、現在のパナソニックです。祖父は70年代にパナソニックと協力してエジプト進出をサポートし、工場の流通を作りました。カラーテレビの導入を通して、当時の世界を変えるような技術を導入したのです。
そのような背景および家業に加え、私の青春時代の初期であった1990年代と2000年代前半は、特に日本は技術やガジェットなどの分野で世界のリーダー的存在になっていました。そのような経緯で私はすっかり魅了され、日本市場にのめり込むようになりました。
当時、家業がナショナルと取引していたこともあり、毎週金曜に家族で鉄板焼きを食べに行ったり、ポケモンやエヴァンゲリオンなどのアニメを見るなど、日本文化にどっぷり浸かっていました。
今では、黒澤明や小津安二郎の映画など、黄金時代の映画を見るようになり、とても深みにはまっています。
興味を持った背景は、家業を通じて日本の技術などに触れ、そして同時に、日本食と日本文化に深く触れるようになったことが、個人的に日本に興味を持つようになった理由です。
今年の夏、ファディが日本に来たとき、関心事について熱心に話してくれましたね。
文化的な面で、日本の面白いところや美しいところは何ですか?
私自身かなりこだわりのある人間なのですが、ひとつ挙げるなら、日本には、自分のやることに100%ではなく、120%力を入れようとする文化があります。
例えば、機械の部品ひとつをとっても、日本人は120%の完成度を目指して、ひたすら努力します。細部にまで気を配っていますよね。
これは文化や人々のあり方から見ても、非常に大きな魅力です。
日本人のDNAには、細部へのこだわりがあるのでしょう。もうひとつは、サービス精神でしょうか。
いずれも日本人がこだわる要素で、良いことだと思います。
ビジネスや投資に関してはどうでしょう。事実上、日本はGDP3位の経済規模を誇っています。
VCの観点から日本をどのように見ていますか?また、世界の投資家は投資機会という観点から日本をどのように見ているのでしょうか?
先進国での最後のフロンティアのひとつだと思います。
日本は、世界第3位の規模を誇っていますが、同時に、そのリードを維持するためには、迅速に行動する必要があります。そのための重要な要素は、「人材と既存の組織」だと思います。
少なくとも以前と比べれば、ファウンダーの数は確実に増えていますし、リスクを取って自分の会社を作ろうとする人たちの数も増え、そうしたファウンダーが手に入れられる資金手段や資金額も増えています。
米国でもようやく、日本のグロースステージの資金を提供する組織がいくつか出てきました。
また、日本市場の成長を維持するには、企業の発展が不可欠です。日本以外の新しい市場で大規模な開発を行う企業が増える必要があります。
たとえば、アフリカのような地域は、重工業が大きな役割を果たすことができる場所です。今後数十年にわたり定期的な収入と成長をもたらし、必要なインフラを構築することができます。
そのような市場は非常に若く、新しい才能を持ったファウンダーがいる市場でもあるので、世界中から既存の大企業が参入して、彼らが成功するために必要なリソースを提供しています。
グローバルの大企業は、現在の優位性を活かして市場全体に展開し、世界中に足跡を残しているのです。
加えて、足元で注目すべきは、人々がより新しい事業に挑戦し、今までなかったサポート体制で新規ビジネスを展開することを良しとする風潮になってきていることです。
私たちは、マルチステージのグローバルVCがもっと日本市場に参入していけるように、日々取り組んでいます。
そして、日本市場の企業が、日本という重要な市場を活用し、それを足がかりにして、さらにグローバルな展開をしていくことを期待しています。
海外の投資家が日本への投資を検討している場合、英語を話さなければいけないですが、もちろんそれだけではなく、我々から心を開いて臆せずに海外の投資家と話をすることが重要だと思います。
海外のVCに日本は面白い市場か、と尋ねると、みんな面白いと答えます。日本の経済規模は莫大だと言います。しかし、日本のベンチャーエコシステムがどのように機能しているかについては、ウェブサイトに情報がない、あるいは何も知らないと言います。
そのような中で、HOFは日本の文化や人々を理解しようと日本市場を研究している数少ない企業のひとつです。日本の文化に興味を示し、日本の投資家と話をしようとする姿勢を見せてくれたことが、私たちがここまで関係を深められた理由のひとつです。
────ファディさんが日本のスタートアップに投資する場合、彼らに何を求めますか?KPI、ファウンダーの質など、日本のスタートアップに特に望むことはありますか?
先ほど、投資家がどのように市場に興味を持つか、というお話がありました。
そこで重要なのは、市場が存在し、人材が存在し、可能性が存在するということです。
市場が小さいとか、才能がないとか、人口が少ないとか、エコシステムが未発達だとか、そういうシステム的な問題ではありません。むしろ、文化的なニュアンスの違いです。
今後10年間は、日本のテック・エコシステムにとって実に興味深いものになると考えています。そのニュアンスを理解するために時間を費やせば、人も巻き込めるし、差別化のポイントも生まれます。
このニュアンスこそが、市場をユニークなものにしており、グローバル市場全体で合理化されていく製品提供のエコシステムから、ある程度保護されています。
日本は世界で唯一、ローカルな技術やプロダクトが数多く存在し、大規模な成長を遂げることができているのです。
日本に限らず、私がアーリーステージの企業に期待することは、ある程度保護された巨大な市場をどうにかして活用し、新しいプロダクトや技術的な成果を生み出してほしいということです。そして、それを新たな市場へ展開することができれば、素晴らしいことだと思います。
そうした成長を促すためには、10年以上のサイクルで考える必要があります。
最近まで日本のアーリーステージのハイテク企業は、米国市場に比べて早く株式を公開する慣習がありましたが、最近は未上場の段階で追加資金の調達を行うように変化しつつあります。
日本のスタートアップには、長期的な視野を持ち、ある程度保護された日本の巨大な市場で、グローバル課題に対する斬新で新しいアプローチを開発することを期待します。また、そのパワーとスケールを活かして、世界的なメガ・プレーヤーになることができると思っています。
仮に世界的なメガ・プレーヤーとまではいかなくても、英語圏における米国のように、日本もアジア全域の市場にとって、大きな存在になればいいと考えていますし、私たちもその手助けの一翼を担えればと思います。
我々も日本のファウンダーの中でもグローバルな視野を持ったファウンダーが好きですし、我々の複数の投資先はグローバルに展開しようとしていることは確かです。 しかし、米国のスタートアップの資本力は日本とはかなり異なるため、日本の企業が米国市場に参入するのは難しいかもしれません。
日本はまだアジアの中の日本、という評価があると思います。
少なくともアジアでは、似たような文化、似たような宗教がありますから、そういったことが日本のスタートアップの多くにとってうまくいくことを願っています。
そして、これが日本人ファウンダーがグローバルに成功するための鍵だと思います。
7.日本市場の魅力と今後の期待
────わずか30年前は、日本の企業が世界のトップ30にたくさんランクインしていました。しかし、こ の30年でトップ企業はほとんど米国の企業に入れ替わってしまいました。この勢いを失ってしまっている日本において、日本のミレニアル世代やZ世代の起業家、ファウンダーをどのように見ていますか?なぜ日本のマーケットに注目するのでしょうか?
どこに投資をするかは、GDPの数値だけでは決まりません。私たちの投資の中核は米国市場であり、それは地球上で最も大きな市場です。
しかし、それ以上に、どこにユニークな機会があり、長期的にはどこが世界により大きな付加価値を生むと考えられるかが重要なのです。
そう思いませんか?投資家や企業などに対して大きな経済的成果をもたらすために、私たちは当然このようなことをしています。
しかし同時に、その最大の原動力は、人類にとって最大の変化をもたらすこと、あるいはそもそも最大の価値を生み出すことにあります。
おっしゃる通り、この10年、あるいは10年以上で日本はリードポジションを奪われてきました。しかし、現在もGDP第3位の経済大国です。
日本はそのリードを維持し、さらに拡大できる可能性がありますが、そのためには、日本以外の市場に打って出ることが必要です。
先ほどもお話したアフリカでは、中国の大企業がインフラを整備し、政府事業を獲得するために競い合っているのを目にします。スリランカやインドネシアでも同様です。
このような状況で、日本の企業はさらに強くプッシュする必要があります。
これらの市場で日本が大きな足跡を残せば、今後数十年間は保証されるでしょう。
私たちの世代は、ソニーのように市場を動かす存在となってパラダイムを変えた企業を作ってきましたが、次世代にそのバトンを引き継がないといけません。
その際、スタートアップ企業は、新しい市場で新しいプロダクトをテストする役割を果たすと思います。 また、その市場で何が起きているのかをリアルタイムに伝えることもできます。
まだ足がかりがない市場に進出して、ジョイント・ベンチャーやM&Aのステージを用意することもしたいと思っています。
日本という国を構成する文化的要素である、最適化や、120%の献身、そして取り組んでいることが何であれリスペクトをすること等、世界はそれをもっともっと見たいと思っているのです。
特に今は、いかにして多くのものを安く作るかが重要な時代になっています。しかし、それは必ずしも私たちが追い求めるべき原動力ではありません。
大きなスケールで高品質のものを作ることこそ、もっと見せてもらいたいと思うことなのです。そしてそれは日本が得意とする領域なのです。
これが私が抱く日本市場の魅力であり、私が期待している理由です。
────今回のお話の中で、海外の投資家が日本に投資しようとするときに、おそらくふたつの大きな問題があると指摘されていました。ひとつは、言語の問題、つまり英語を話せる日本人が多くないということです。もうひとつは、開示情報自体が少ないということですね。
DGDVは日本発のグローバルファンドとしてこのふたつの課題の解決に邁進しています。HOFはDGDVと協力して、この日本市場で今後どのようなことを展望されていますか?
正直に言って、DGDVチームと一緒に仕事をするのは楽しいことです。
私たちは常にコミュニケーションを取っていて、毎月のオンラインコールはもちろん、複数のSNSでもつながっています。
私たちが米国で見ていること、DGDVチームが東京や日本全国で見ていること、そして私たちがつまずいたことなどについてもお互いに共有します。
そして、興味深いファウンダーや興味深い分野に遭遇し、さらに深く掘り下げたいと思ったときにはいつでも連絡します。言葉の壁になりそうなものがあればサポートもしています。
全体として、日本のエコシステムに対する同じ長期的な命題を持ち、それを実現するために、私たちはさまざまなリソースを組み合わせ、適切な機会を見つけ、それを理解し、私たち自身で投資機会を呼び込むことができます。
そして、私たち自身の投資と他のグローバルな投資の両方を、その企業やエコシステムに引き込み、その成長とスケールアップを支援することができるのです。
従って、DGDVとの連携にはとてもワクワクしています。
実は私たちの間で話している話題は個人的なことも含みます。一緒に北海道へのスキー旅行を計画していたりもするんです。これはファディがずっとやりたかったことなんです。
HOFとDGDVは同じようなビジョンを持っています。それが私たちが一緒に多くの投資をしている理由のひとつでもあります。
私たちは同じような分野、課題に関心を持っていて、日本だけでなく世界的なイノベーションを支援したいと思っています。それを共に叶えるためにも、今後もHOFと持続的な関係を築きたいと思っています。
そうした共通の命題を持つHOFと一緒に過ごす時間をとても楽しんでいます。
こちらも全く同じです。
新しい人たちと一緒にやっていくためには、私たち自身が完全に同じ考え方に立ち、同調している必要があります。
ファディから、日本以外の投資家から資金調達を計画している日本のファウンダーに伝えたいメッセージはありますか?
そういうファウンダーに届けたいメッセージがあれば是非お願いします。
最後の質問で、私たちがなぜ日本に期待しているのか、そして日本が持つ機会についてお話しました。
それを踏まえて私からのメッセージは「自分を過小評価しないこと、長期的に考えること、そしてグローバル・シフトを活用すること」です。
異なる世界のダイナミズムの中で、日本は常に革新的で勤勉でいますが、極限まで最適化を追求し、何をするにも最高水準を目指すという基本原則はこれまでも、これからも変わりません。
そのため、新しいテクノロジーの時代においても、産業革命の時代と同じように、日本文化の良い側面を継続していけばいいのです。
それは今まで私が聞いた中で最高のメッセージのひとつです。
多くの日本のファウンダーがまさにおっしゃっていただいた通りだと思いますし、海外の投資家と話すのは彼らの宿命のような気がしてならないのです。
でも、中には本当にシャイな人もいるし、海外の投資家と話すことに自信を持てない人もいる。だから、そういうメッセージは本当に重要だと思います。
日本人のファウンダーの皆さんがこの記事を読んで、自信を持って、本当に彼らが情熱を注いでいることを、その情熱のままに実行に移してくれることを願っています。
素晴らしいメッセージをありがとうございます。
Thank you very much for your cooperation as always, Fady! – Arigato Gozaimashita!
(※この記事は英語対談を元にした日本語抄訳記事になります)